分解収納して運ぶことのできるフォールディングカヤックにはフォールディングカヤックでなければできないことや魅力が多々ありますが、フォールディングカヤックにとって、組み立てがしやすいか否かは非常に重要なことです。
インフレータブルなどを除いたSkin-On-Frameのフォールディングカヤックカヤック(本来のカヤックの構造に近いカヤック)は、木材やアルミのパイプで作られた分解のできるフレームに船体布を被せるという大筋の基本構造は共通していても、組み立て方はメーカーなどによって大きく異なり、各々工夫が凝らされていて特徴があります。
私はこれまで多くの種類のフォールディングカヤックを組み立てた経験がありますが、最初にお伝えしてしまいます。
TRAK 2.0は私がこれまで経験した中で最も組み立てが楽だと感じたフォールディングカヤックです。
これは、組み立てに力や特別なコツを必要としないだけでなく、普通に組み立てれば正確に組み上がる(センターがずれてしまったり捻れたりしない)という意味も含まれています。
TRAK 2.0の組み立て方についてはいずれまた詳しく解説し、ビデオも作ろうと思っています(英語版はいくつかYouTubeに公開されています)が、TRAK 2.0の組み立てについて具体的に説明する前に、今回は他社の代表的なアルミ合金フレームのフォールディングカヤックの組み立て方や仕組みをざっと紹介し、TRAKとの共通点や違いなどについて解説したいと思います。
異なる組み立て方のフォールディングカヤックの代表例2タイプ
私にもまだ触ったことのないフォールディングカヤックはありますが、基本的な構造や組み立て方の仕組みの種類はそんなに多くありません。
アルミ合金フレームのフォールディングカヤックには、組み立て方が全く異なる代表例が2タイプがありますので、まずはそれらについてざっと説明しておきます。
Feathercraft
Feathercraftは私が長年の間最も多く触れてきたカヤックです。
2017年以降もう製造されていないカヤックですが、アルミ合金フレームのフォールディングカヤックの代表格だったカヤックであり、組み立ての仕組みも独特でした。
K2と比較的初期に存在していたST(日本名はFRT)と初期のK1は中期以降のFeathercraftとはフレームの構造や組み立ての仕組みが異なりましたが、中期以降のFeathercraftのシングル艇は細部は異なれど基本的に全て同じ仕組みでした。
K2とSTは、アルミ合金フレームでありながら、構造や組み立て方がむしろ伝統的な木製フレームのフォールディングカヤックに近かったのでそれについての説明はここでは省き、中期以降のFeathercraftのシングル艇の仕組みと組み立て方について説明します。
Feathercraftの組み立てで一番大きな特徴は、フレームを全て組み立ててから船体布の中に挿入するのではなく、フレームを半分組み立てたような状態で船体布の中に入れ、最終的には船体布の中でフレームを完成させるという点です。
組み立て方の概要を説明すると以下のようになります。
- 最初にバウとスターン各々のセクションのフレームを組み立て(コックピット前後以外のリブをフレームに装着)、船体布に開いたコックピットの穴からそれら各々のセクションを船体布の中に入れます。
- 次に、前後のセクションのキール・左右のガンネル・左右のチャインフレームを伸縮式のエクステンションバーというパイプで繋ぎます。
- そして、前後のセクションを繋いだエクステンションバーを伸ばすことによって前後への船体布の張りを出します。
- その後にコックピット前後のリブ2枚を取り付けることによって、横方向への張りを出します。
- これだけではまだ船体布に十分な張りが出ていないので、最終的にはガンネル部分の両サイドに入っているエアスポンソンというチューブに空気を入れることによって船体布の張りを出して完成となります。
Katsalanoだけはエアスポンソンに空気を入れなくても船体布の張りが十分得られるようになっていて、エアスポンソンに空気を入れても入れなくても使用できるようになっていましたが、その代わり船体布がタイトで、他のモデルより組み立てが難しくなってしまう(力も要する)という弱点がありました。
フジタカヌー ALPINA、mont-bell アルフェック
メーカーが違うので組み立て方についてももちろん違う部分はありますが、この2ブランドは大筋の部分で仕組みや組み立て方が共通しています。
この2つはフレームを完全に組み立ててから船体布の中に挿入するのですが、それが組み立て方でのFeathercraftとの大きな相違点です。
組み上がったフレームを船体布内に挿入する仕組みであるため、当然コックピットの穴からフレームを挿入することができないため、どちらも船体布のスターンデッキがジッパーで大きく開くようになっていて、そこからフレームを挿入するようになっています。
そして、Feathercraftが船体内でフレームを伸ばすことで張りを出すのとは反対で、組み上がっているフレームに船体布側を引っ張ってフレームに被せるというような組み立て方になります。
フジタカヌーにはALPINA以外にも組み立て方の異なるシリーズがありますが、アルフェックは前身のファルホークの時代からこの組み立て方式です。
各々の利点と弱点
組み立てに関してはどちらのタイプの方が絶対的に組み立てやすいというようなことはなく、「慣れているタイプの方が組み立てやすい」だと思います。
上の説明でFeathercraftはエクステンションバーを伸ばすとしか書いていませんが、慣れていない人やコツを得ていない人にはこの作業が最大のネックとなり、「Feathercraftは組み立てが大変」または「組み立てに力が必要」と言われる原因になっていました。
しかし、慣れている者にはこの仕組みほうが組み立てやすく、正直に言うとALPINAを使うようになっても私は依然FeathercraftのWisperやKahunaの方が組み立てが楽(ALPINAが面倒ということではないのですが)と感じてしまいます。
また、Feathercraftの船体布にはコックピットの穴と荷物の出し入れ用のハッチ(ハッチを設けていないカヤックもあります)しか大きな穴がありませんが、ALPINA/アルフェックにはスターンデッキにはジッパーで開く大きな開口部があります。
ジッパーがあってもしっかりとした防水対策がされていれば殆ど影響はないと思いますが、浸水に関してはFeathercraftの方がやや有利ということにはなります。
しかし、それより問題となるのはジッパーの固着や故障です。
特に海で使用する機会が多い場合は、しっかり手入れをしたつもりでいても、使用せずに収納している期間が長いとジッパーが固着してしまうことがあります。
スターンデッキがジッパーで開閉する仕組みのカヤックを海で使用する場合は、真水で毎回しっかり洗って乾かしておくことはもちろんですが、使用しない期間も頻繁に点検と手入れを欠かさないことが必須となります。
しかし、船体布に大きな開口部があることには利点も多々あります。
まず、船体内の掃除洗浄がしやすく乾かしやすいということが挙げられます。
大きな開口部を開いたイカのようにガバッと開けば船体内に入ってしまったゴミや砂などを掃き出しやすく、船体布の内側全体を洗い流しやすく、洗った後も乾かしやすいので、これは大変大きな利点となっています。
また、スターンデッキの開口部が大きく開くことで、大きな荷物やドライバッグの出し入れがしやすいというのも大きな利点です。
対して、Feathercraftの場合は船体布内に砂などが入ってしまうと取り出しにくく、船体内の排水がしにくいだけでなく、船体布の内側が濡れてしまうと大変乾かしにくく(特にエアスポンソンの入っているスリーブが乾かない)、これはFeathercraftの構造の大きな弱点だと私は思っています。
総括すれば、Feathercraft方式とALPINA/アルフェック方式のどちらにも利点と弱点はあり、絶対にどちらの仕組みが優れているということではないということです。
ハイブリッドなTRAK方式
では肝心なTRAK 2.0の構造と組み立て方についてです。
簡単に言うと、TRAK 2.0はFeathercraft方式とALPINA/アルフェック方式をミックスし、さらに高度な技術を盛り込んだような形となっています。
言い換えれば良いとこどりしてさらにアップグレードしたような感じです。
TRAK 2.0は、フレームを前後のセクションに分けて組み立て、船体布内で各々のセクションを繋ぐ点はFeathercraftと共通しています。
しかし、後部デッキはALPINAやアルフェックのように大きく開くようになっているので、Feathercraftよりフレームを船体内に入れやすくなっています。


船体布内側の掃除洗浄がしやすくて乾かしやすく、荷物の出し入れがしやすい点もALPINAやアルフェックと同じです。
しかし、スターンデッキの開閉システムはALPINAやアルフェックとは異なり、普通のジッパーを使用せず、Kederクロージャーという独自のシステムを採用しています。


Kederクロージャーは普通のジッパーのようにスライダーが固着してしまうことはなく(スムースな動きために潤滑剤は塗布します)、破損する可能性も普通のジッパーより低く、機密性が高いためカバーなどを付けて防水対策を施す必要性もありません。
Kederクロージャーについてはまたの機会に詳しく説明しますが、これによってスターンデッキに大きな開口部があってもジッパーの固着や故障のリスクから解放され、完璧な防水も実現されています。
Feathercraftの組み立てに関する弱点が完全に克服されているTRAK 2.0
船体内でフレームの前後のセクションを繋ぐ方式はFeathercraftと共通しています。
しかし、Feathercraftは腕力か体重を利用するなどしてエクステンションバーを伸ばすのですが、それにはコツも必要です。
それに対し、TRAK 2.0はこの部分が油圧を利用して軽い力でレバーを操作するだけのハイドロジャックというシステムに置き換わっています。


ハイドロジャックのレバーを動かす操作には全くと言って良いほど力は要りません。もしこの操作に力が必要と感じるとしたら、大袈裟ではなくパドリングが不可能です。それほど力は必要としません。そして、特別なコツも要りません。
Feathercraftを販売していた当時、組み立ての説明ではエクステンションバーの操作の仕方が最も大きなウェイトを占めていましたが、これからはその仕事がなくなります。
また、ハイドロジャックによってTRAK 2.0はロッカー(カヤックの前後の反り)を変えられるので、状況に応じて全く性質の違うカヤック(直進性が非常に高いか回転性が良いか)に変えることもできるようになっています。
この辺りについてもまたの機会に詳しく説明しますが、ハイドロジャックは他には類のないとにかく大変画期的なシステムです。
Feathercraftのエクステンションバーより重量は増してしまいますが、重量増分以上の価値は確実にあります。
また、Feathercraftはエクステンションバーを伸ばして前後にテンションをかけた後に、コックピット前後2枚のリブを船体内で装着する必要があり、これもまたコツと場合によっては少し力を要することのある作業で、説明の必要な部分でした。
しかし、TRAK 2.0はコックピット前後のリブも装着してからフレームを船体布の中に入れるようになっていますので、この作業も必要なく、組み立て説明の私の仕事がもう一つ減ることになります。
組み立てが大変と言われてしうこともあったFeathercraftの弱点2つを完全に克服している組み立てのシステムです。
また、Feathercraft方式に慣れてしまっている私がALPINAやアルフェックの組み立てで最も苦手と感じるのはフレームのスターン先端部分を船体布内に押し込む作業なのですが、当然これもありません。
これらが「TRAK 2.0が最も組み立てが楽なフォールディングカヤック」と私に感じさせた理由です。
エアスポンソンがなく、張りのある船体布
そして、TRAK 2.0には、ほとん全てのSkin-On-Frameスタイルのフォールディングカヤックと非常に大きく異なる点があります。
殆どのフォールディングカヤックは最終的にガンネル部分にあるチューブ(エアスポンソン)に空気を入れることで船体布の張りを出しますが、それがないことです。
元来カヤックには空気を入れるチューブなどありません。これはフォールディングカヤックにのみ備わった船体布に張りを出すための仕組みです。
今回は乗り心地や操作性についての詳しい話は省きますが、このエアチューブがある時点で本来のカヤックとはかなり異なった乗り心地や操作性になってしまうことは確かです。
エアスポンソンには船体布に張りを与える以外にも利点はあるので、一概にこれがあったらダメだなどと言うつもりはないのですが、私は「エアスポンソンがなくても船体布に張りがあり、剛性が高く、組み立てが容易である。」をフォールディングカヤックの理想とずっと考えていたのですが、TRAK 2.0がまさにそれなのです。
TRAK 2.0は、同じくエアスポンソンに空気を入れなくても使用できるFeathercraft Katsalanoより組み立てがずっと容易で剛性も高いのですが、エアスポンソンのあるカヤックと比べても船体布の張りは全く引けを取ることがありません。
組み立てが最も楽に感じるフォールデイングカヤックと書きましたが、知っている限りで最も剛性が高いと感じるフォールディングカヤックでもあります。



