iSUPがバーストする原因と対策

red paddle Inflatable Board

空気を入れて膨らますインフレータブルSUP(iSUP)は、釣り針や魚の鋭いヒレなどがデッキ面などに刺さって小さな穴が開き(パンク)、そこから空気が漏れることや、空気の封入口のバルブが緩んで空気漏れを起こすこともあり、基本的には自動車などのタイヤと事情は似ています。

しかし、パンクより多いiSUPの甚大な故障は破裂事故で、夏はSUP人口が増えますが、破裂事故が劇的に増える時期でもあります。

パンクや破裂(バースト)の可能性があることは「空気モノ」にとっての宿命と言えば宿命であり、iSUPには経年劣化による寿命もありますが、使用上の注意やケアで防ぐことができるケースも少なくなく、寿命を伸ばすこともできます。

今回は特に暑い時期に発生することの多い「iSUPの生地の継ぎ目の剥離やバーストの原因やそれに対する対策、寿命を縮めない方法」などについて解説します。

理論上の知識を並べただけではなく、多くの事例を見てきた中で知り得たことに基づいた内容ですので、これからiSUPの購入を検討している方も既に使用中の方も参考にしてください。

どこでバーストが起きるのか

基本的に全てのiSUPの外皮はPVCでできていて、内部はドロップステッチという無数の糸で上下が繋がれた構造となっています。

また、iSUPはデッキ面の生地とボトム面の生地がレールの部分(側面)で接合されています。

これらは廉価品でも高級品でも基本は皆同じといえば同じで、ぱっと見は見分けもつきにくいのですが、PVCやドロップステッチの品質には大きな開きがあり、上下の接合の仕方(レール部分の作り)や補強方法にも大きな開きがあります

こういった品質や技術の差が価格差としても表れているのですが、耐久性・強度にもボードとしてのパフォーマンスにも大きく影響します。

レール部分はぶつけやすいので、外側からの刺激を受けやすい箇所でもあるのですが、元々繋がっていなかったところを接合しているわけですから、充填された高圧の空気によって、ここが最大のウィークポイントになってしまうのも当然です。

そのため、拘るメーカーは材質に拘るだけでなく、レール部分の作りに大きく拘り、ここに拘れば非常にコストもかかります

接合部分が少しずつ剥がれた場合は徐々に空気漏れする程度で済むこともありますが、一気に広範囲に剥離すると破裂する(バースト)ことになります。

そして、バーストの90%以上がこの上下の合わせ目=レールの部分で起こっています

また、徐々に空気が抜けていく程度であればいきなりボードが沈んでしまうようなことはなく時間的に多少の余裕があり、バーストが起こるのは大抵陸上ですが、もし水上でバーストしたらボードが一気に沈んでしまうという大変危険な事態に陥ってしまうことになります。

剥離が起こる原因

接合部分の合わせ目を二重三重に補強しているメーカーもあれば、上から一枚テープを貼っただけのような単純な構造のボードもあります。

そして、接着剤での接合もあれば、より強度が高く軽く仕上がる溶着による接合方法もあります。

接着剤の品質にも差があり、接着の技術力にも差があります。

iSUPは価格に大きな開きがありますが、価格を抑える最も簡単な方法はこういった部分でコストを省くことです。

コストパフォーマンスが高いのと、ただ安いのとは意味が全く違います。

あまりに安価な製品は、レール部分でコストを削っている可能性が高いので、剥離やバーストする確率も高くなります

また強度・耐久性とは直接関係のない話ですが、そのように安直に作られた製品は相応にボードとしてのパフォーマンスが低いことも容易に想像がつきます。

経年劣化

接合に使われる接着剤は、高品質な物であっても経年で劣化し、保管方法によって劣化が早まることもあります。

また、使用する材料や製造方法で相対的に耐久性を高めることはできますが、どんなに頑丈に作られた高級品であっても、経年劣化が全くないなどということはなく、寿命があることは否めません

iSUPの外皮はPVCでできています。PVCは大変丈夫で塩分に対しても強い素材ですが、意外と耐熱性は高くないようです。

一般的なPVCの熱耐温度は60°C〜80°C程度、軟質PVCは60°C〜70°Cで軟化が顕著になり、変形や劣化が早まるそうです。

また、熱は生地だけでなく、接着剤にも悪い影響を与えると考えられます。

溶着の方が接着剤で接合するより接合強度や耐久性が高いとされていますが、何れの接合方法だったとしても、生地自体の物性が低下してしまえば剥離する大きな原因になると思われます。

衝撃に対してハードボードよりずっと強いのはiSUPの大きな利点ですが、尖っている岩などに強くぶつけたり穴が開くようなものが刺さらないように注意したりすることも大切です。

しかし、何よりiSUPの一番の弱点は熱に対してです。

気圧や気温の変化

高山や飛行機の中でポテトチップスの袋が膨れ上がる現象と同じで、平地でボードを膨らまし、カートップして標高の高いところへ持って行けば、外の気圧に対してボード内部の気圧が相対的に上がることになり、空気を入れた時より内圧は高くなります。

平地で規定値まで膨らまして標高の高いところへ持って行ったとしたら、規定値以上の圧力の空気を入れたのと同じことになり、バーストを引き起こす可能性があります

また、標高は同じでも気温が高くなってボードの中の空気が温められると中に入れた空気が膨張し、やはり同じような現象が起こります

剥離・バーストへの対策

iSUPは価格に大きく開きがありますが、価格を抑える最も簡単な方法は品質を落とすことです。

購入してしまってからでは遅い話ですが、剥離やバーストを回避するために最初にできる対策は、所謂「安物≒耐久性や強度が低いもの」を選ばないことです。

しかし、扱い方次第では高価で高級なボードでも剥離やバーストは発生しますので、どんなボードでも対策は必要です。

熱対策

先述の通り、iSUPの一番の弱点は熱です。

これも購入してしまってからでは遅い話ですが、黒や濃い色は熱の吸収が高いので、避けた方が無難です。

実際、それまで片面が黒や濃い色のボードを作っていたメーカーが、バーストが多かったことが理由で黒や濃い色の採用をやめ、それ以降は全て白基調に変更した事例がありました。

保管中や移動中

暑い日の車内温度は短時間で50°Cを超えることがあり、ダッシュボードなどは80°C近くまで上昇する可能性があるそうです。

ダッシュボードの上にボードを置くことはないと思いますが、窓際や荷室などの温度はPVCの軟化が始まる60°Cに達してしまうことも十分あり得るということです。

また、60°Cまで上がらなかったとしても、それに近い高い気温に長時間晒しておいたら、PVCの物性の低下を招いてしまったり、接着剤を劣化させていたりする可能性が十分あるとも考えられます。

車内に積みっぱなしにすれば、確実にiSUPの寿命を縮めますので、車内に積みっぱなしの保管は絶対にNG行為です。

しかし、駐車中などにどうしても高温になってしまう場合もあります。そういった場合は、すぐに膨らますのではなく、少しクールダウンしてから空気を入れた方が安全だと思います。

倉庫や物置なども条件によっては車内に積みっぱなしと同じようなことになります。

保管している倉庫がそんなには暑くはならないと言った人がいたのですが、例えばその中に1時間以上人が居続けることができるのかといったようなことが目安になるのではと思います。

人が1時間以上居続けることもできないような温度になる倉庫に、使用する時以外は46時中保管されていたとしたら、即バーストには繋がらないとしても、PVCの物性の低下を招いたり、接着剤を劣化させてしまっていたりする可能性が高そうです。

そして、倉庫保管が原因と特定はできませんが、その「保管している倉庫がそんなに暑くはならない」と言った人は、何本かのボードを他の人より早くダメにしていて、よりヘビーユーザーがもっと長持ちさせているといったことがあるのも事実です。

また、PVCは比較的耐候性の強い素材ですが、もちろん屋外での保管も良くはありません。特に日の当たる場所は高温になるだけでなく、万物を劣化させる紫外線にも晒され続けることになるので、さらに悪条件となります。

SUPの手入れに関して「使用後に真水でよく洗うことが重要」などと言っている人もいますが、PVCは塩分に対して弱いわけではない(Dリングやネジ穴など金属部分は錆びないように注意が必要)ので、そんなことよりとにかく暑くなるところに長時間放置しないことが一番大切です。

使用中

先述の通り、暑いところに放置しておくと内部の空気が膨張し、耐圧を超えてしまう場合もあります。

暑い時に休憩などで上陸する際は長時間日の当たるところに放置せず、なるべく日陰を探すなどの工夫が必要です。

または、「一旦少し空気を抜き、再出発する際にまた空気を規定値まで入れ足す」、或いは「水面が穏やかであれば、リーシュやロープで係留し、水面に浮かべておく(お湯のような水温であれば意味が薄れてしまいますが)」なども有効です。

その他の主な注意点

角ができるような畳み方をすると、折り癖がついて生地の同じ部分に負担がかかって傷んでしまい、その部分がパンクやバーストの原因になってしまう可能性もあります

ずっと畳んだまままにせず、使用しなくてもたまに広げ、角ができるような畳み方をするより、緩めに円筒形になるように畳んでおいた方が安全だと思います。

また、置き場所があるなら畳んで保管するより広げておいたほうが良いのですが、しっかり空気を入れたままにしておくとボードへの負担が大きく、熱で膨張する可能性もあるので、規定値まで空気を入れた状態で長時間保管するのも良くありません

畳まない場合は、概ね10psi程度までは空気圧を落としておく必要がありますが、ボードの最大耐圧にもよるので、もっと落としておいた方が無難かと思います。

また、剥離やバーストの原因になることではありませんが、湿度の高い場所はカビが発生する原因にもなり、PVCは大丈夫としてもデッキパッドなどが加水分解を起こす原因にもなり(大抵その前にボード本体が寿命を迎えると思いますが)ますので、湿気への注意も必要です。

そして、湿気対策は湿度の高い時期は特に注意が必要ですが、それだけではなく、冬は畳んだままにしておくと結露で湿ってしてしまうことがあります。

長期間使用しない場合も、使おうと思ったらカビであちこち黒ずんでいるなどといったことも起こりますので、使用しなくてもたまに広げることはそういった意味でも大切です。

また、早朝に電動ポンプを使用することで騒音が問題になるため、標高の高い湖や川に持って行く際に膨らました状態でカートップして持って行く人もいるようです。

騒音に対する心掛けは良いと思うのですが、先述の通り標高が変わると気圧の差でボードが膨張し、バーストしてしまう可能性があります。

これに対する対策は、ボードの気圧は控えめにしておき、現地に着いたら手動ポンプで空気を入れ足すことです。

剥離の修理

まだ空気漏れは起きていない程度で、レール部分の一番外側の補強テープが剥がれ始めている程度であれば、接着し直すことも比較的難しくないので、少しでも剥がれ始めていたら使用は中止し、傷が浅いうちに補修してください。確実に寿命は伸びると思います。

空気が漏れ始めていたら完全に修復するのは難しいと思いますが、トライする価値はあります。

YouTubeなどで修理方法を解説している人もいますので、「isup repair」などワードで検索してみてください。

但し、パンクの修理した後は元の規定値まで空気を入れるのは危険です。少し気圧を下げて使用する必要はあります。

また、どこかで空気漏れが起こっていると、他の部分も弱っている可能性も高いので、修理してもまた他の場所で空気が漏れるようになってしまう可能性も低くありません。

バーストしてしまった場合は、残念ですが修理は諦めた方が良いようです。

修理をしてくれる専門業者(バルーンの製造業者など)も存在しますが、バーストしてしまった場合は修理を引き受けてくれない場合が多いようで、空気漏れ程度の場合も、やはり規定の空気圧まで上げないことを推奨しているようです。

iSUPのパンク・バースト対策と修理についてのまとめ

繰り返しになりますが、とにかくiSUPの一番の弱点は熱です。

iSUPの寿命を縮めないためには、熱に長時間晒さないことが一番重要です。

一流メーカー品であっても、使い方を誤れば寿命を縮めてしまうこともバーストさせてしまうこともあります。

また、一流メーカー品であれば、長い保証期間(例えば、red paddleの場合は5年保証)もつきます。

一流メーカー品であっても運悪く「ハズレ」に当たってしまうこともありますので、保証期間が長いということは、ユーザー側にとっての保険というような意味もありますが、それだけではなく、メーカー側からすれば品質に対しての自信の証でもあります

ボードとしてのパフォーマンスにも大きな差があり、命に関わる道具でもあるので、「初心者だから…」のような理由で安価な粗悪品を選ぶのは間違いだと思います。

また、専門の修理業者が修理しても完全に元通りになることはありませんので、現在当店では基本的に修理業者への取次ぎも当店での修理も承っておりません。

iSUPは安価な製品も多く、ビギナー向けと思われることも多く、置き場所に困らないという理由で選ぶ人も多く、どちらも間違いではありませんが、実は保管や扱いなどに関してハードボードより注意や手間が必要とも考えられます。

ぶつけても壊れにくいという意味ではハードボードより強いとも言えますが、あまりにズボラな人向きではないかもしれません。

私も決してマメな方ではありませんが、最低限の注意やケアは怠っていないつもりです。

安全に長く愛用するためには、傷めないように注意し、ケアも必須です

追記

肝心なことで書き忘れていたことがあったので、追記しておきます。

夏の砂浜やアスファルトの温度です。

裸足で立てない温度になることは全然珍しくありません。そこにボードを直に置いたらどうなるかということです。

間違いなくPVCも接着剤も劣化させ、空気で温められるよりずっと早く内部の空気が熱で膨張して気圧がオーバーしてしまいます。

気体より個体との接触の方が熱が伝わりやすいのは中学校(小学校?)で学んだ通りで、熱い空気中にあるより熱い地面に接触している方が急速にボードが熱くなってしまいます。

熱い地面に直接置かず、地面との間に空間を作ることが大切(フィンの保護にもなる)です。

ウマ(ラック)に乗せる、流木や石の上に置く、柵に立てかけるなど方法は色々あるので、状況に応じて工夫してください。

また、砂地・アスファルトより草地の上の方が断然安全です。

とにかく、熱い地面に直接置くのも絶対NGです。

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