先日初めて2021年モデルのRed Paddle Voyager+ 13’2”の現物を確認しました。Voyager+ 13’2”は私も愛用してきましたが、Red Paddle最強のツーリングボードです。
場所は海岸ではなく、他の用事のついでだったので横浜の大黒PA(と言うと何か怪しげな響きですが、大黒PAは向かう方向に関係なく利用できるので待ち合わせに便利だから)でした。
写真で平面的にアウトラインだけを見る限りではあまり大きく変わった感じはしないのですが、現物を3D的に見ると、大変大きな変化を感じます。
V HULL
まず何より目を引く変化は、ノーズのボトム形状です。これまでもVoyagerにはRed Paddle独自のノーズランナーフィンが付いていて、それのおかけで非常にトラッキング性が高かったのですが、2021年モデルのVoyagerはノーズランナーフィンを継承しつつ、ノーズのボトム形状自体が平面ではなくVになっています。
しかし、無闇にボトムをV字型にしてしまうと安定性が著しく落ちてしまいます。Vボトムのカヤックは常にどちらかに傾いてしまいやすく、慣れていない人には非常に不安感を与える(Vボトムのカヤックが良くないのではなく、簡単に言えば一般的にVボトムのカヤックは少なくとも全く初心者向きではないという意味です)のが良い例です。
ところが、Voyagerの場合はVが強く表れているのは水面から反り上がったボードの先端付近のみで、ロッカーが弱くなるに従いVも滑らかに弱くなり、ロッカーのないフラットな部分(実際に人が乗って加重がかかるところ)はVボトムとはなっていません。水を切り裂く部分のみVにして水切りを良くして滑走性を向上させるためのデザインです。所謂Vボトムやキールのようなものではないので安定性に影響が出ることはなく、抵抗になって逆効果になってしまう(Vの付け方や位置によってはその可能性もあります)ようなこともありません。
また、並べて比較したわけではないのですが、ノーズロッカーが2020年モデルまでのVoyagerより少し強くなっているように感じました。ノーズのボトムに入れたVに合わせて微妙にロッカーもセッティングし直したのではないかと思います。
Red Paddleは非常に正確に作られていて捻れなどがないだけでなく、ロッカーが滑らかで綺麗に出ていて均一で個体差がないのが大きな特徴(逆に言えば捻れていたりロッカーが滑らかでなかったり、個体差のあるインフレータブルボードが少なくないということです)ですが、これはそうした基本的な技術力の高さがあってこそできることで、雑な雑作では弊害の方が大きく出て、逆効果になってしまうことも十分考えられます。
また、ノーズのボトムにVを作ることによって得られた恩恵は他にもあります。ノーズデッキがコンケーブ(凹)したことです。中心が少し凹んだことでデッキに積んだ荷物の座りが良くなりそうです。
ツィンフィン
ボードを裏返すとわかるもう一つの大きな変化は、ツィンフィンになったことです。ツーリングボードやレースボードは、中にはスラスターもありますがシングルフィンが一般的です。そして高水準のツーリングボードやレースボードは、現在大抵USボックス仕様となっていて、互換性のあるフィンと交換することが可能です。これまでのVoyagerもUSボックスのシングルフィンでした。
ツィンフィンはCompactから導入されたシステム(CompactのフィンボックスはUSボックスではなく、FCSタイプ)ですが、正直なところCompactを使ってみるまでツィンフィンがツーリングボードやレースボードに向いているとは考えたこともありませんでした。しかし実際にCompactを使ってみると思いの外ツィンフィンは好印象で、レースではどう作用するかわかりませんが、少なくともツーリングボードには意外に合っていることがわかりました。開発者も多分同じように感じていたのではないかと思います。
ツィンフィンにすることのメリットは、トラッキングが高まり、直進性が良くなって長距離のパドリングが楽になることが考えられますが、もう一つメリットがあります。2本にすることで、シングルよりフィンの大きさを小さくすることができる点です。
2021年モデルのVoyagerに標準で付属するフィンは昨年までのシングルフィンより高さが低くなり、面積も小さくなっています。これによってトラッキング性能と安定性を高めながら、浅い水深に対してより有利になっています。さらに、ボックスがこれまで通り汎用性の高いUSボックスであるため、川用の極端に高さの低いフィンも2本付けられることになり、トラッキングや安定性を全く犠牲にすることなく、川ではより使いやすくなったのではないかと思います。
新しいRSSバテン
外観的には大きく変わる部分ではないのですが、バテンの素材がこれまでのファイバーグラス製から、もっと柔らかいプラスチック製に変更となり、幅も若干狭くなっています。
考えてみたら、ボードの剛性を高めるためには板(バテン)にある程度の幅があれば良いだけで、硬さは関係なく、ファイバーグラスのような硬さは必要なかったのです。
実際に入れるときの感触は滑らかになり、入れやすく感じました。しかし柔らかくなったため、ファイバーグラスのバテンと同じような入れ方(力のかけ方)をするとバテンが曲がってしまうので、これまでとは少し違った力のかけ方をする必要があります。
艤装
フォア(前)デッキのバンジーコードは幅のあるフラットなものに変更されました。このフラットなバンジーコードは大変しっかりしていて長さの調整も簡単にできるようになっているので、より荷物を固定しやすくなっていると思います。
2020年モデルもセンター以外に左右両サイドにグラブハンドルが付いていましたが、2021年モデルの両サイドにグラブハンドルはセンターのハンドルより少し前に付けられています。これによって、足を大きく広げてもグラブハンドルに足が当たってしまうことがなく、足を広げられる幅が広がっています。
アフト(後ろ)デッキにはこれまで4箇所にDリングが付いていましたが、2021年モデルはDリングが6箇所に増え(バンジーコードは付いていません)、大きな荷物の固定がしやすくなっています。
ポンプ
新しいタイタンポンプも初めて使ってみました。元々タイタンポンプは足の安定性は高い方で使いやすかったのですが、安定感がさらに増したことで、実際に使ってみるとよりポンピングがしやすくなったことを実感できました。正直これほど安定性がポンピングのしやすさに影響するとは思っていなかったのですが、結構違います。
そして、足をたためてハンドルを外せるようになったので、これまでVoyagerを収納するときはボードでポンプを巻かなければバッグに収まりませんでしたが、ボードに巻き込まず別々でもバッグに収納できるようになりました。Titan II Pumpについては以前に書いたこちらの記事をご覧ください。
その他
もしかしたら気のせいかもしれませんが、触った感触がよりしっかりした感じがしたと言うか、感触がさらに良くなったような感じがしました。微妙に材質の変化もあった可能性はあります。
デッキパッドのデザインの変更などその他にも幾つか変更点はありますが、目についた大きな変化は以上です。
試乗と入荷時期
まだデモボードは1本のみで、私の手元にも届いていないのですが、いずれにしても現在自分自身の体の問題で乗れる状態ではないので、試乗はできていません。しかし、これまでVoyager+ 13’2”は毎年進化はしつつも乗り心地に影響するようなアップデートはなかったので、今回は乗ってみるのが非常に楽しみなアップデートです。
次回の入荷で私のデモボードも届く予定なので、2月の後半には試乗していただくことも可能になりそうです。試乗艇が用意できたらまたお知らせしますが、商品の入荷も試乗艇の入荷時期と同じ1月か2月頃の予定です。私も乗ってみたわけではありませんが、乗ってみなくても良くないわけがないことはわかります。これまで以上に他の追従を許さない最強のツーリングボードに仕上がっていることは想像に難くないことです。
油断していると「欲しいと思った時には在庫がない」は案外ありがちです。春から存分に使いたいと思っている方は、今からご予約いただいた方が間違いないと思います。
価格はメーカー希望小売価格が税別本体価格¥185,000です。当店の販売価格は後出しジャンケンをされるのも嫌なので公表していません。お問い合わせください。