何故かパドルの修理ネタはPVが多いようです。
今回は、パドルのシャフトが折れてしまった場合の修理方法をご紹介します。
シャフトが折れてしまった場合の修理
FRP(カーボン・グラスその他の繊維で補強された強化プラスチック)シャフトが完全に折れてしまった場合の修理方法は、シャフトが中空なので、「シャフトの中に削った木材で作った芯材を入れるなどして繋ぎ合わせ、外側にガラス繊維の布を巻いて樹脂で固める」などになります。
この写真は10年以上前に修理したシャフトなので、修理に使用したエポキシ樹脂も変色してしまい、見た目も悪くなってしまっています(修理したての頃はもっとシャフト全体に馴染んでいました)。
この写真では中がどうなっているかはわかりませんが、折れたシャフトの中には木を削って作った芯材を入れて繋ぎ合わせています。
当然修理した箇所は少し太くなってしまいますので、修理箇所が握る位置と重なるとあまり具合が良くありません。
また、多少なりとも重量が増してしまい、しなり具合のバランスも重量バランスも崩れます。
自分のパドルはこうして修理したことがありますが、苦労と経費をかけてもあまり報われないので、この方法での修理は依頼されても基本的にお受けいたしかねます。
シャフトが完全に折れてしまった場合は、同じシャフト(または同じ系のシャフト)が入手可能であれば、それに交換するのがベストです。
完全に折れていないけどヒビが入ってしまった場合
完全に折れてはいなくても、シャフトに亀裂が入ってしまうことがあります。
完全に折れてしまった場合のように芯材は入れず、外側をガラス繊維の布で巻いて樹脂で固めるだけでは強度に不安が残るので、それはあまりお薦めしません。
運よく内径が修理したいシャフトの外径と合うシャフトの切れ端があれば、その太い方のシャフトの切れ端をカバーにして修理することも可能です。
先日修理の依頼を受けたパドルは、この方法で復活しました。
しかし、この場合も完全に折れてしまった場合と同様、修理箇所が握る部分と重ならないことが条件となります。
また、当然ながら系の合うシャフトの切れ端があった場合に限られるのですが、これはかなり“たまたま”です。
こうして修理はしたのですが、接着が甘かったようで(私の単純なミス)、カバー(黒いシャフトの切れ端)が使用中にズレてしまいました。
同じようにもう一度しっかりとエポキシで接着し直すことは全く問題なく可能でしたが、使用してみてやはり漕ぎ心地に若干違和感を感じられた(しなり具合のバランス?)とのことで、このパドルは結局新品のシャフトに交換することになりました。
ブレードもグリップも付いていない状態の高級シャフトを持ってみると、その軽さに改めて驚かされます。
そして、このシャフトの価格は、50%カーボンシャフトのエントリークラス(最低クラスではないやつ)のパドルを2本買えてしまうような金額です。
そう思うと、逆に「こんな軽い棒がそんなにするの??」と目ん玉が飛び出そうにもなるのですが、軽くて丈夫なのが高級シャフトです。
それで思ったのですが、逆にせっかくの高級パドルなのだから、コストが嵩んでも修理方法を妥協せず、完璧に元通りに治した方が良いとも思いました。
シャフト交換は、ブレードもグリップもホットグルーで接着されていればヒートガン(強力なヘアドライアーでも可)で炙るだけで簡単に外れるので、特に難しいことはありません。
後は新しいシャフトの長さをカットして、またホットグルーで接着しなおし、継ぎ目にヒートシュリンクチューブ(熱を加えると収縮して固まるチューブ)を被せるだけです。
シャフトの交換は大した手間ではありません(ホットグルーで接着されていればですが)が、これで完全な修理の完了です。
これに関連してもう一つ付け加えておきます。
シャフトが完全に折れてしまった際の修理方法で「シャフトの中に削った木材で作った芯材を入れるなどして繋ぎ合わせ・・・」と書きましたが、シャフトの切れ端をカバー(外側)にして修理する方法の逆パターンで、折れたシャフトの内径に合う太さのシャフトの切れ端があった場合は、それを芯材にして繋ぎ合わせることができます。
寸法がぴったり合う芯材になるシャフトの切れ端があれば、2Pや3Pパドルの継ぎ目部分と同じようなことになるため強度的には問題ないことになり、外側にガラス繊維の布を巻かずに済むか、巻くとしても最低限の厚みで済ませることができます。
この方法なら、完全に元通りを望むのでなければ、パーフェクトに近い修理が可能なので、運良く折れたシャフトの内径に合うシャフトの切れ端があれば非常にラッキーです。
こんなものもあります
まだ使用したことはないのですが、シャフト状のものを修理するための、水で濡らすとカチカチに固まる補修テープというものを見つけたので、買ってみました。
パッケージの表には折れたスコップのシャフトに巻いて修理した写真やダンベルのシャフトを修理した写真がありますが、パッケージの側面には水を入れたバケツを修理後のスコップのシャフトにぶら下げて強度をアピールしている写真もあります。
また、水道管など水回りにも強いと書いてあります。
ということで、パドルの補修にも良さそうです。
水に10〜20秒浸してテープに水を染み込ませた後、補修箇所に弛みがないようにしっかりとこのテープを巻きつけ、5〜10分放置すれば硬化するそうなので、短時間で修理が完了するようです。
これは、完全な修理のための材料というより、短時間で補修が可能な利点を活かし、ツーリング中にシャフトが折れてしまった場合など、緊急時対策用として持っておくのに最適な製品なのでは思いました。
パドルだけでなくテントのポールなどの補修にも使えるので、特にキャンプツーリングに出る際のエマージェンシー修理キットに加えておくと良いのではないかと思います。
シャフトとブレードの継ぎ目で折れてしまった場合の修理
ブレードの継ぎ目付近でシャフトが折れてしまったパドルの修理依頼を受けました。
こうした場合は、パドルの全長は少し短くなってしまいますが、折れたシャフトの先端を少しカットし、繋ぎ直せば解決します。
今回修理したパドルのシャフトは、アラミド繊維の補強が入っていたようでした。
カーボンは非常に強くて軽い印象がありますが、カーボンシャフトのパドルが折れる時はガラス繊維やアラミド繊維の補強よりむしろポッキリ折れてしまいやすいよう(あまり詳しいことは分かりませんが繊維の織り方などでも強度や性質が全然変わるようです)にも感じます。
アラミド繊維も非常に高い強度がありますが、カーボンのようにパリパリした感じではなくて、アラミド繊維は普通の布の糸に近い質感です。
折れたシャフトの先端部分は、スパッと折れた状態でもささくれていたような状態でもなく、吸水していたのか、グソグソと腐ったような感じになっていました。
まずはこの腐ったような(本当に腐っているわけではなく雰囲気)部分をカットしたのですが、アラミド繊維は防弾チョッキなどにも使用されるだけあって、一般的なカーボンシャフトやカーボンとグラスのミックスのシャフトを切断するより少々手強かったように感じました。
しかし、ここまでは大した手間ではありません。
今回の修理が少々厄介だったのは、ホットグルーではなくエポキシでシャフトとブレードが繋がれていたようなので、ブレード側の内部(シャフトが入る部分)にエポキシの塊が固着して残っていて、それを除去しなければならなかったことです。
エポキシの塊はしっかり密着していたのでパリッと剥がれるような感じではく、削り取るしかありませんでした。
元々接合部分はピタッとはまるようにタイトに作られているので、きっちり削り取らないと接合できないのですが、電動のミニルーターとサンドペーパー(手動)を使って削り具合を何度も確認しながら根気よく丁寧に削り取っていくしかありません。
しかし、削り過ぎたら緩くなってしまうし、それよりも削り過ぎて内壁が薄くなってしまったら強度が落ちてしまうので、そっちにより気を使います。
さらに、このパドルは最近あまり見かけなくなった断面が楕円のシャフトだったのですが、ブレード側のシャフトが差し込まれる部分も当然楕円なわけで、均等に削るのにより手間がかかりました。
作業している途中で、「ピタッとはまるように作られているのに、何故エポキシの塊が残っていてシャフトが入らないのか?」といった疑問も湧いてきたのですが、そんなことを考えていても仕方がないし、入らないものは入らないのだからひたすら削りました。
ようやくシャフトが収まるようにはなったのですが、元々ブレード側のシャフトが入る部分の長さがあまり長くなかった(それがこの部分で折れた一因にもなっていたと思います)のに加え、折れた時にブレード側(メス側)の一部も少し欠けてしまっていたようなので、このまま接合しても少々心もとない印象でした。
そこで、シャフトの先端数箇所に縦に切り込みを入れてみることにしました。
粘りのあるアラミド繊維が入っているおかげか、こういうことをしてもパリッと欠けてしまったり、亀裂が入ってしまったりするようなことはありませんでした。
これは、ブレード側のシャフトより細くなった部分までシャフトを深く差し込めるようにすることが狙いです。
案の定、切り込みを入れる前よりずっと深くまでブレード側にシャフトを差し込めるようになり、安定感がずっと増しました。
接着する前に、シャフト側も接着剤の乗りを良くするためにサンドペーパーをかけて表面を荒らしておき、その後は、ブレードの内側とシャフト側にもたっぷりとホットグルーを塗り接着するのですが、ホットグルーを塗る前に、どちら側もヒートガンでしっかりと温めておくと効果的です。
この写真は修理が終わった後ですが、ブレードやグリップの接合にはヒートガンとホットグルーを使うのが一般的です。
そして、ヒートシュリンクチューブは継ぎ目からの浸水を防ぐものですが、少しは接着強度の補助にもなると思うので、被せておくとより安心です。
しかし、炎天下に長時間パドルを放っておくなどするとホットグルーが溶けてしまうことがあります。
稀なことだとは思いますが、それでブレードが外れて落としてしまうこともあるようです。
その点多少の注意は必要(今回は少し長めに切ったヒートシュリンクチューブも被せておいたので、その心配が多少低くなってはいます)です。
炎天下に長時間パドルを放置しないことが第一ですが、暑い時にはパドリングを開始する前にブレードやグリップが緩んでいないか確認し、もしも緩んでいたら水にしばらく漬けるなどして、十分に冷やしてから使用することを推奨します。直接修理とは関係のない話ですが。
ついでにグリップの欠けも修理
このパドルは、グリップの一部に欠けているところもあったので、ついでに修理しておきました。
こういった場合、ボードの修理用のDURA RESINという製品があるのですが、それを使うのが便利です。
DURA RESINは、2液を混合するタイプではなく、チューブから出し、紫外線に当てると固着するタイプのエポキシレジンです。
水道管などの修理に使うエポキシパテでも欠けた部分を埋めることは可能で、そちらの方が安価ですが、DURA RESINは透明(水道管修理用は白く不透明)で修理後の見た目も良く、隙間も出来にくい(浸水する可能性が低い)ので、やはりDURA RESINの方がお薦めです。
エポキシはポリエチレン付かないので、上の1枚目の写真のように指にポリ袋を被せるなどして表面の形を整えることが可能です。
このレジンは紫外線に当たると固着するので、日光の当たらないところで作業します。
表面の形が整ったら、紫外線を当てて硬化させるのですが、晴れていたら日光に当てるだけでも短時間で固まるので、サーフトリップの携行品(そっちが本来の用途)としても絶対的にお薦めします。
固着後は少しサンドペーパーをかけて整形すれば綺麗に仕上がります。
そして最後は、かなり古いパドルだったため、グリップもブレードも表面が荒れて乾燥肌のような状態になってなっていたので、若干ざらついた感じになるマットのクリアをスプレーして修理は完了しました。
古いけど気に入って使用されていた思い入れのあったパドルだったそうなので、大変喜んでいただけ、修理をした甲斐もありました。
また、このパドルが新品当時にはまだなかったかと思いますが、せっかくの高級なパドルのブレードには、極力新品時にRSProのEDGE SAVER(ブレードのプロテクションテープ)を貼っておくことをお薦めします。